コレクション

第4回 企画展 篠田桃紅「清秋」

■2007年9月4日(火)−12月27日(木)

墨による独自の抽象表現を展開する篠田桃紅(1913― )。書家として出発し、しだいに書の領域を超えて、抽象美術家として国内外で活動の場を広げました。
本展では、桃紅の書家としての一面に焦点をあて、桃紅が2000~2003年にかけて制作した「万葉百首」シリーズをご紹介します。このシリーズは、桃紅が万葉集より和歌百首を選んで書きしるした作品で、今回は百首のうちから秋を詠んだ24首を展示いたします。
また、あわせて墨による抽象絵画作品も展示し、秋から冬へとうつる気配をはらんだ風、光、音を髣髴とさせる詩情豊かな世界をお届けします。桃紅の筆による抽象絵画と万葉和歌の数々が豊かな響きを奏でます。
書を手がけてきた篠田桃紅にとって、落款を押印する際につかう朱は、常に傍らにあるものでした。墨と向かい合い、その厳しさに思うにまかせぬときどき、朱の存在は桃紅にしばしの安らぎを与えてきました。一点の火のごとく墨に寄り添うひそやかな朱、また艶やかに馥郁たるかたちを結ぶ豊穣の朱―本展では「朱」をテーマに絵画作品とリトグラフ約30点をご紹介します。

以呂波(1993年頃)以呂波(1993年頃)
桃紅による「いろはにほへと」の文字。「文字を書くことは記号の約束のなかのもので、制約のなかの安心がある」と桃紅は語っています。

回想(2001年)回想(2001年)
銀色のキャンバス地に、強いエッジで墨色の色面が構成されています。金で引かれた線が画面を動きのあるものにし、デザイン的でありながらも幽玄さの漂う作品です。


おもい(2001年)おもい(2001年)
画面中央に引き下ろされた墨の線は、桃紅自身の姿にも似て凛とした佇まいを見せます。それらは、桃紅のルーツが書であることを示しています。



篠田桃紅 (しのだとうこう)

作品一覧 (所蔵作品:100点)  ■略歴

<プロフィール>

篠田桃紅1913年、中国大連に生まれる。岐阜は本籍地。5歳の時、父の手ほどきで初めて墨と筆に触れ、以後独学で書を極める。第二次世界大戦後、文字を解体し、墨で抽象を描き始める。1956年渡米し、ニューヨークを拠点にボストン、シカゴ、パリ、シンシナティ他で個展を開催。58年に帰国して後は、壁画や壁書、レリーフといった建築に関わる仕事や、東京芝増上寺大本堂の襖絵などの大作の一方で、リトグラフや装丁、題字、随筆を手掛けるなど、活動は多岐にわたった。1960年代の激しい筆致はやがて叙情性をたたえ、80年代から90年代にかけては、線はより洗練された間を構成していった。
近年、面と線は寄り添い、朱はあくまで高貴に、墨は静かに鋭く、あるいは控えめに層をなしている。
2005年、ニューズウィーク(日本版)の「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれた。また同年、5メートルを超える絵画を制作するなど、筆勢は留まることがない。