墨線が鋭敏大胆に交差した緊張感あふれる空間構成は、篠田桃紅の抽象作品の大きな魅力ですが、色彩が極限に抑制されていることもその一つとして挙げることができます。
書というモノトーンの世界から出発した桃紅にとって、数多ある色の中から墨いろ一つでさまざまな色や形を表現することは必然的なことでした。そして墨とともに使われる限られた色には、金、銀、朱、緑青などがありますが、中でも朱は、しばしば作品の主として使われてきました。
今展では、墨との対比に浮かび上がる凛とした朱の佇まい、脈打つ生き生きとした朱の魅力を紹介します。
《a Tale》2002年 リトグラフ