筆勢の強弱、筆触の量感やにじみ、墨と余白の間など、これまで篠田桃紅の作品における音楽的な要素については、しばしば語られてきました。書の枠を越え、墨線による抽象表現へと展開させていった桃紅。その初期作品にはリズム、また現代における桃紅独自の研ぎ澄まされた線やかたちには旋律を、余白には音と音との間の沈黙を感じます。
今展では、作曲家・斉木由美氏がインスパイアされた桃紅作品、約25点を展示します。会期中には、桃紅作品《歓》を題材にした斉木由美作曲による新作が初演されます。桃紅作品と現代音楽の邂逅から生まれる深い共鳴をお楽しみください。
篠田桃紅は、これまでに1000点を越えるリトグラフを手がけています。刷りの状態を確かめながら加えた一筆によって、画面はより一層豊かな表情を湛えています。また、リトグラフの手法は、版画でありながら描いた筆の線をそのまま生かすことができ、水墨作品とはまたひと味違う作品世界を展開します。
今展では、当財団が所蔵するリトグラフ作品240点余りの中から、音楽に関わる言葉がタイトルとなっている作品を選び展示します。
桃紅はエッセイの中で、「私は音をかたちに置き替えるような気持ちで筆をとることも多い。音を墨いろに託すのであるが、そういう時の心に宿ってくるいい音を、常々聞いておきたい。」と綴っています。リトグラフに加えられた最後の一筆に宿った心の音と墨いろが行き交い、詩を奏でます。