1979年、初随筆集『墨いろ』で第27回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。その後刊行された数々の随筆集に綴られたことばは、日々、桃紅の心に兆したものの断片を記した思いのかたちです。思いがけなくあらわれた墨いろに、一瞬の心の動きがとどまりかたちとなるように、桃紅のことばには、「自分の考え」と自覚したものではない、ふとした時々の思いが留められています。またそれは、桃紅の百年の人生を通して得た独自の美意識に裏付けられているのです。
このたびの展覧会では、「美」をキーワードに、随筆集から抜粋したことばと作品から桃紅の美意識を知ろうとするものです。
篠田桃紅桃紅芸術月間2014 Solitary
篠田桃紅は2013年、100歳を迎えました。今回8回目となる関市立篠田桃紅美術空間、岐阜現代美術館の2館協同企画「篠田桃紅芸術月間2014 Solitary」では、エッセイに綴られたことばと水墨のかたちから洗練された桃紅の美意識を紹介します。
桃紅といえば、墨による抽象画家として広く知られ、初個展から70年余りにおよぶ創作のなかで発表された作品の多くは、国内外の美術館やコレクターが所蔵し、公共施設や企業、ホテルなどの建築空間に設置されるなど、日本の墨象作家の中で最もよく知られた一人といえるでしょう。
しかし、墨を使った抽象画を制作する傍ら、1960年ころよりリトグラフの制作を始め、1979年にはエッセイ集『墨いろ』で第27回エッセイスト・クラブ賞を受賞するなど、幅広い領域で表現活動を続けており、作品はもとより、研ぎ澄まされた美感によって紡がれたエッセイ中のことばや、普段から着物をさらりと纏い、「私の主人は私自身」と何者にも惑わされない生き方を貫く桃紅の潔い姿は、老若を問わず多くの人々の心を捉えて放しません。
今回は、既刊のエッセイ集から桃紅の哲学を感じることばと、100年の人生を通して生まれた水墨のかたちを紹介し、桃紅の美意識をあらためて知る展覧会です。